常任委員会行政視察報告 令和7年10月1日~2日②
- n42yuta930
- 10月11日
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●常総市防災先進都市を目指す取り組みについて
1.はじめに 茨城県常総市を訪問し、防災先進都市としての取り組みについて視察研修を実施しました。 常総市は平成27年9月の関東・東北豪雨において、市域の約3分の1が浸水するという甚大な被害を経験しました。鬼怒川の堤防決壊により6,000棟を超える住家被害が発生し、この未曽有の災害から得た教訓を活かし、現在では「防災先進都市」として全国的に注目される先進的な取り組みを展開しています。伊奈町は比較的災害リスクが低い地域とされていますが、近年の気候変動により全国各地で予想外の災害が発生している状況を鑑み、常総市の経験と先進事例から学び、伊奈町の防災体制強化に活かすことを目的として本視察を実施しました。本研修では、その復興の歩みと防災教育・地域連携の仕組みを学び、今後の伊奈町における防災政策の充実に資することを目指しました。
2.災害の概要と得られた教訓 平成27年関東・東北豪雨の実態 参考資料:平成27年9月 関東・東北豪雨|常総市災害記録「忘れない9.10」
被害の概要について 平成27年9月9日から10日にかけて、台風17号・18号による線状降水帯が記録的な大雨をもたらし、鬼怒川が急激に増水しました。9月10日には若宮戸地区での溢水に続き、三坂町地区で堤防が約200mにわたり決壊。市域の約3分の1にあたる40平方キロメートルが浸水し、市役所本庁舎も1階が浸水するなど、災害対策本部機能にも支障をきたしました。 主な被害状況

・人的被害: 死者15名(災害関連死含む)、負傷者44名 ・住家被害: 全壊53棟を含む計6,123棟 ・救助活動: 自衛隊、警察、消防等により4,258名を救助 ・災害廃棄物: 52,494トン
災害から得られた教訓 常総市職員から、自身も被災した経験を踏まえ、「堤防は決壊しない」という正常性バイアスにより避難しなかった住民が多数いたこと、また日頃の防災教育や避難訓練の不足が課題であったことが語られました。この痛切な経験が、現在の防災先進都市としての取り組みの原点となっています。
3.常総市の防災先進都市としての取り組み (1)組織・体制面

・災害対策本部の再構築 議会棟2階に常設スペースを確保し、本部長(市長)、副本部長(副市長、教育長)等で構成。国・県・警察・消防等のリエゾン席を設置し、情報を一元化する体制を整備しています。 ・実践的な訓練体制 職員の異動に対応するため、毎年4月に新任職員研修、年2回全庁的な本部訓練を実施。地域防災計画も毎年見直し、実効性を高めています。 ・広域連携体制の構築 鬼怒川・小貝川流域の13市町で「減災対策協議会」を設置し、広域避難協定を締結。つくば市等への広域避難訓練を定期的に実施し、避難経路や所要時間を確認しています。 (2)ハード対策・ハード整備の推進 国・県と連携した「鬼怒川緊急対策プロジェクト」として堤防のかさ上げ・拡幅を実施。また、内水被害対策として田んぼに水を一時貯留する「田んぼダム」を推進中です。さらに、避難所となる小中学校への冷房設置も来年度から開始予定とのことでした。
(3)情報伝達 ・ICTの活用 地図情報を共有する「G空間システム」や浸水予測システム「iDR-4M」を導入し、災害状況をリアルタイムで把握・共有できる体制を構築しています。
G空間システム https://front.geospatial.jp/ 浸水予測システム「iDR-4M」https://www8.cao.go.jp/cstp/bridge/keikaku/r5-33_bridge_r7.pdf)
・情報伝達の多重化
防災行政無線に加え、防災ラジオ、メール、SNS等を一元的に配信できるシステムを構築。防災ラジオは市民に有償(3,000円)で4,300台配布し、高齢者のみの世帯には無償提供しています。
(4)住民と共に進めるソフト対策
・マイ・タイムラインの作成支援
住民一人ひとりが自分の避難行動計画を作成する全国初の取り組みで、その先進性が評価され総務大臣賞を受賞しています。小学校低学年から講座を実施し、家族単位での防災意識共有を促進しています。
・防災教育の制度化
災害発生日の9月10日を「常総市防災の日」と制定し、市内全小中学校で一斉防災教育を実施。小学生に人気の腹話術を取り入れるなど、内容を工夫しています。

・防災スポーツ・防災キャンプ
楽しみながら自助・共助の動きを学ぶことを目的に、小学校高学年を対象に防災スポーツを実施。また、1泊2日の防災キャンプを通じ、自助・共助・公助と「生き抜く力」を総合的に学ぶ体験型の学びを提供しています。
・自主防災組織の再編
令和3年より、従来の町内会単位から連携しやすい「小学校区単位」へ再編し、結成率は約72%に達しています。市は結成のための勉強会開催や、訓練用資機材の貸し出し等の支援を行っています。
・防災士の育成と活用
受講料を市が全額補助し、260名の防災士を育成。「常総市防災士連絡協議会」を設立し、防災教育やマイ・タイムライン作成支援などで積極的に活動しています。
・要配慮者・外国人支援
福祉部が管理する名簿に基づき、自主防災組織が避難行動要支援者の支援担当者を決定。また、市民団体と連携し、外国人住民向けのハザードマップ作成支援や避難所体験訓練を実施しています。
▼常総市外国人向けハザードマップ
https://www.city.joso.lg.jp/foreign_language/page004121.html
4.伊奈町への示唆と活用の方向性 今回の視察を通じ、「防災は施設整備だけでなく、地域の力によって支えられるもの」であることを再確認しました。常総市の取り組みから学ぶべき最も重要な点は、「被災経験を次世代に活かす仕組み」を構築していることです。単にハード整備を進めるだけでなく、住民一人ひとりの防災意識を高め、地域全体で災害に備える文化を醸成している点は、伊奈町が目指すべき方向性を示しています。 1. マイ・タイムラインの導入
常総市の取り組み: 住民一人ひとりが自分の避難行動計画を作成する「マイ・タイムライン」の取り組みを全国で初めて導入し、総務大臣賞を受賞。
伊奈町での活用可能性: 町民が「自分事」として災害に備える意識を醸成することが重要です。小学校低学年からの防災教育と連動させることで、家族単位での防災意識の共有が図れます。比較的災害リスクが低いとされる伊奈町だからこそ、平時からの備えとして有効な施策です。マイ・タイムライン作成講座のように、町民が自ら考える防災を広める取組は、特に小中学校や地域団体と連携した防災教育の強化が期待されます。
2. 防災教育の充実
常総市の取り組み: 堤防決壊の日である9月10日を「常総市防災の日」と制定し、市内全小中学校で一斉防災教育を実施。防災スポーツや防災キャンプなど、楽しみながら学べる啓発活動も展開。
伊奈町での活用可能性: 伊奈町の小中学校においても、同様の防災教育日を設定することで、子どもたちに「命を守る行動」を具体的に学ばせることができます。特に防災スポーツは、体を動かしながら自助・共助の重要性を体感できる点で、子どもたちの記憶に残りやすい取り組みです。体験型の学びを通じ、次世代への防災文化の継承を図ることが求められます。
3. 防災士の育成と活用
常総市の取り組み: 市が受講料を全額補助し、260名の防災士を育成。「常総市防災士連絡協議会」を設立し、防災教育やマイ・タイムライン作成支援などで活躍。(補助金を活用せずに取得している方は、この数字には含まれていない。)
伊奈町での活用可能性: 現在実施している防災士の育成支援制度を再検討し、地域に根差した防災リーダーを計画的に増やしていくことが重要です。自主防災組織との連携により、実効性のある地域防災体制を構築できます。防災士等の人材を活かした地域連携が災害時の実効性を高めます。
4. 自主防災組織の再編成
常総市の取り組み: 令和3年より、従来の町内会単位から連携しやすい「小学校区単位」へ自主防災組織を再編。結成率は約72%
伊奈町での活用可能性: 既存の自主防災組織の活動実態を検証し、より実効性の高い単位での再編成を検討する価値があります。小学校区単位は顔の見える関係を保ちながら、ある程度の規模を確保できる適切な単位といえます。小学校区単位でのネットワーク形成は、災害時の実効性を高める有効な方法です。
5. 情報伝達手段の多様化
常総市の取り組み: 防災行政無線に加え、防災ラジオ、メール、SNS等を一元的に配信できるシステムを導入。防災ラジオは市民に有償(3,000円)で配布し、高齢者のみの世帯には無償提供。

伊奈町での活用可能性: 高齢者や情報弱者に確実に情報が届く仕組みの構築が必要です。防災ラジオの有償・無償併用方式は、財政負担を抑えながら必要な世帯に確実に情報伝達手段を届けられる合理的な方法です。防災無線だけに頼らず、SNSやメール、防災ラジオなど複数手段を組み合わせることで、町民への迅速な情報伝達が可能となります。
6. 広域連携体制の強化
常総市の取り組み: 鬼怒川・小貝川流域の13市町で「減災対策協議会」を設置し、広域避難協定を締結。つくば市等への広域避難訓練を定期的に実施。
伊奈町での活用可能性: 大規模災害時には自治体単独での対応には限界があります。近隣自治体との広域避難協定の締結や、定期的な合同訓練の実施を検討すべきです。特に、避難経路や所要時間を事前に確認しておくことは実効性の面で重要です。近隣自治体との情報共有の仕組みを強化する必要があります。
7. 災害対策本部の実効性向上
常総市の取り組み: 職員の異動に対応するため、毎年4月に新任職員研修、年2回全庁的な本部訓練を実施。国、県、警察、消防等とのリエゾン席を設け、情報を一元化。
伊奈町での活用可能性: 災害対策本部の実効性を高めるため、定期的な訓練と職員教育の充実が必要です。特に人事異動後の研修は、災害時の混乱を防ぐために不可欠です。実践的な訓練の実施により、災害対策本部の実効性向上を図ることが求められます。
8. 要配慮者・外国人住民への支援体制
常総市の取り組み: 福祉部が管理する名簿に基づき、自主防災組織が避難行動要支援者の支援担当者を決定。市民団体と連携し、外国人住民向けのハザードマップ作成支援や避難所体験訓練を実施。
伊奈町での活用可能性: 高齢化が進む中、要配慮者の避難支援体制の具体化は急務です。また、外国人住民への情報提供についても、多文化共生の視点から取り組む必要があります。名簿管理と連携訓練を通じ、避難支援体制を強化することが重要です。
(町が直接要支援者名簿作成に関与する必要があるのでは・・・)
5.常総市の視察から
「災害は忘れた頃にやってくる」という言葉がありますが、常総市は「災害を忘れない」ための努力を重ねています。常総市の取組は、被災を「風化させない」強い意志のもと、住民と行政が一体となって防災文化を育てている点に特徴があります。伊奈町は幸いにして大きな災害を経験していませんが、だからこそ平時から備えることが重要です。伊奈町も、これを一つのモデルとして、「災害に強く、命を守るまちづくり」を推進していくことが重要です。特に、以下の点については伊奈町でも早急に検討・導入を図るべきと考えます。
①マイ・タイムラインの導入: 町民の主体的な防災行動を促す
②防災教育の充実: 次世代への防災文化の継承
③防災士育成支援: 地域防災リーダーの計画的な育成
④情報伝達手段の多重化: 高齢者等への確実な情報伝達
⑤広域連携体制の強化: 近隣自治体との協定締結と合同訓練
⑥実践的な訓練の実施: 災害対策本部の実効性向上
⑦自主防災組織の再編支援: 小学校区単位でのネットワーク形成
⑧要配慮者支援体制の具体化: 名簿管理と連携訓練の強化
今回の視察で得た知見を活かし、伊奈町においても実効性のある防災体制の構築に向けて、町民の安全と安心を守るため積極的に提言してまいります。常総市の「全国の支援への恩返し」という精神のもと、防災の知見を惜しみなく共有いただいたことに敬意を表します。常総市の取り組みを参考に、町民の生命と財産を守るための防災体制強化に向けて、引き続き調査研究に努めてまいります。




